Essay
続・本棚と本
#29|文・藤田雅史
先々月、書庫を作りたい、と書いた。我が家には本棚はおろかそれを設置するスペースもなく、本の置き場に困ってしょうがないので、どこか別の場所に書庫をこしらえたい、と。
で、今回はその続編です。
改めて書くと、僕が事務所に使っているのは三階建ての古い鉄骨の建物の一階で、今、三階部分が入居者なしで空いている。このフロアを、オーナーの許可を得て、まるごと書庫として使わせてもらうことにしたのだ。
広さは十坪くらい。畳でいえば約20畳。一般住宅のちょっと広めのリビングという感じで、よくあるレンタルのトランクルームよりはだいぶゆとりがある。ただ、広さ的には申し分ないのだけれど、建物自体はかなりボロッちくて、天井の一部が雨漏りで剥がれていたり、トイレがいまだに和式だったりと、快適に使うためにはどうしても工事が必要だ。
工事。つまり、それはリノベである。
本を保管するだけならば、壁や天井の壊れたところを補修して、あとはスチールラックかなんかを安く買ってきて、そこに本をどさどさ積み重ねればいい。でもそれだけではちょっとつまらない。だってリノベだ。どうせリノベをするなら、せっかくなのでゆったり読書できるソファなんかも欲しいし、書斎としても使えるようにデスクも置きたいし、読み書きに疲れたらごろんと横になれたり、なんならヘヴィな〆切前はそこで寝泊まりができたりしちゃう環境も欲しい。トイレは洋式が望ましく、当然ウォシュレットも完備したい。(大量の本に囲まれると便意を催すことがよくあるからだ。※「#04 - 謎の現象と本」参照)
そこで、こんなふうに使いたい!というメモをコピー用紙にせっせと描いて、建築家の友人Tくんに手渡した。空間を広い部屋と狭い部屋の二つに区切って、広い方を書庫と読書スペースに。狭い方を書斎スペースに。書庫は四方の壁のうち、南向きの窓のある面を残して、すべて天井から床までの本棚にする。そして真ん中にふかふかのソファを置く。むふふ。好きな本に囲まれた自分だけの秘密基地。考えれば考えるほど楽しくて仕方ない。よだれが出る。
そして先日、Tくんが図面を作って持ってきてくれた。お願いしたことが全部ちゃんと具現化され、その上でプロの意見も盛り込まれていて、嬉しくて鼻血が出そうだった。少しだけわがままを言って修正を加えてもらい、さてこれから見積、という段階である。来週は工事の関係者が現場の下見に……と、この調子で原稿を書き進めていくと、本のエッセイというよりもただのリフォーム日記みたいになってしまうので、本の話に戻す。本棚について書こう。
本棚を作る上で大事なこと。それはまず、奥行きと棚についての問題を考えることだ。
奥行きの問題というのは、本を1列で収めるか、あるいは奥にもう1列の合計2列で収めるか、ということ。「四六判」と呼ばれる普通の単行本のサイズは幅が13センチ弱(ちなみに文庫は11センチ弱)。これを基準にすると、1列で収めるなら15〜20センチ、2列なら30センチ前後の奥行きが必要になる。
書店の棚のように美しく収納したければ、1列の方が断然スッキリしているし、薄くてスマートだ。「奥の2列目に何があるか、1列目の本をどかさないと分からない」という不便さもない。でも、2列も捨てがたい。だってそのまんま収納力が2倍になるのだ。それに30センチもあれば大型の図録や写真集なども並べられる。書庫としての能力を考えれば、「収納力2倍」は大きい。
もうひとつ、棚の問題というのは、棚を固定するか、可動棚にするか、だ。美観でいえば、固定棚の方が圧倒的に端正な見た目になる。単行本の高さを基準にして、ちょっと低い文庫だけの棚を作ったり、腰より下は大型の図鑑サイズに高くしたりと、棚ごとの余白がばらつかないように整えてやると、優等生ばかりの全校集会みたいな、統制と調和のとれた美しい本棚になる。何より可動棚のあの醜いダボの穴が存在しないのがいい。
でも。今回は奥行き30センチの可動棚で作ってもらうことにした。見た目のスタイルのよさは妥協して、実用優先で作ってもらう。本は著者別、分野別、そして関連するものはできるだけひもづけて収納しようと思っている。となると、作家やジャンルごとに単行本、文庫、ムック本や雑誌がひとかたまりとなるわけで、当然、本の高さを揃えるのは現実的でなく、それならばどう考えても可動棚の方が都合がよさそうなのだ。ちなみに制作のコストは、固定棚でも可動棚でもそれほど変わらないらしい。
ところで、せっかく本棚を作るのだから、本棚の本を参考にしようと思ってネットや書店で探してみた。でもいい本がなかなかヒットしない。「世界にはこんな素敵な図書館があるよ」「個性的でお洒落な本屋さん」「うわー大迫力の本棚ですねえ」みたいな本ならあるものの、欲しいのは、インテリアとしてのスタイリングや、デザイン的な視点で本棚の事例を比較検討できるような本。書店に行ったら奥の実用書コーナーの「住宅」とか「インテリア」に分類されているような本だ。北欧風インテリア、ニューヨークのアトリエ、モダンキッチン、シンプルな暮らしのお部屋…みたいな、よくあるそういう流れの中の「ブックシェルフのデザイン」「美しい本棚」「本と生きるシンプルモダンの暮らし」的なタイトルを探しているのだけれど、ちっとも見つからない。「文豪の住居」とは違うし、「収納アイディア」っていう視点ともまた違うんだよなあ…。まあ本棚なんて基本みんな同じかたちだし、バリエーションも何もないか…。ニッチすぎて需要がないか…。Casa BRUTUSとかで特集してくれないかな…。
この本棚づくりの話、そのうちまた続きます。
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